近年のソフトウェア開発において、セキュリティは最重要課題の一つです。特に、外部からのコード実行が必要となるオンラインジャッジシステムやコード実行環境では、悪意のあるコードからシステムを守るための対策が必須となります。
そんな課題を解決するのがDify-Sandboxです。Dify-Sandboxは、信頼できないコードを安全な分離環境で実行するためのオープンソースライブラリであり、システムコールの制限やリソース制限など、強固なセキュリティ機能を提供します。
本記事では、Dify-Sandboxをより深く理解し、自分の環境に合わせてカスタマイズできるように、Dockerfileを用いたDify-Sandboxの構築方法をステップバイステップで解説します。
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なぜDify-Sandboxを自分でビルドするのか?
公式イメージを利用する手軽さの一方で、独自のニーズに合わせたカスタマイズが必要となるケースも少なくありません。例えば、
- 特定のバージョンのGo言語やPython環境を使用したい
- 特定のライブラリを追加したい
- セキュリティ設定をより厳密にカスタマイズしたい
このような場合、Dockerfileを用いたDify-Sandboxのセルフビルドが有効です。
DockerfileによるDify-Sandbox構築
それでは、実際にDockerfileを作成し、Dify-Sandboxをビルドしてみましょう。
Dockerfileの作成
まず、以下の内容を記述した Dockerfile
を作成します。
# ビルドステージ
FROM python:3.10-slim AS builder
# 必要な依存関係をインストール(sudoを含む)
RUN apt-get update && apt-get install -y \
sudo \
pkg-config \
libseccomp-dev \
wget \
xz-utils \
gcc \
g++ \
git \
make \
cmake \
curl
# Go言語のインストール
RUN wget https://go.dev/dl/go1.21.6.linux-amd64.tar.gz && \
tar -C /usr/local -xzf go1.21.6.linux-amd64.tar.gz && \
rm go1.21.6.linux-amd64.tar.gz
# 環境変数の設定
ENV PATH="/usr/local/go/bin:${PATH}"
# Dify-Sandboxのソースコードを取得
WORKDIR /tmp
RUN git clone https://github.com/langgenius/dify-sandbox.git
# Dify-Sandboxのビルド
WORKDIR /tmp/dify-sandbox
# install.shとbuild_amd64.shを実行
RUN ./install.sh && ./build/build_amd64.sh # amd64の場合
# ARM64の場合は以下を使用
# RUN ./install.sh && ./build/build_arm64.sh
# 実行ステージ
FROM python:3.10-slim
# ビルドしたDify-Sandboxバイナリをビルドステージからコピー
COPY --from=builder /tmp/dify-sandbox/main /main
# 設定ファイルと依存関係をコピー
COPY conf/config.yaml /conf/config.yaml
COPY dependencies/python-requirements.txt /dependencies/python-requirements.txt
# Pythonの依存関係をインストール
RUN pip3 install -r /dependencies/python-requirements.txt
# Node.jsとcurlをインストール
RUN apt-get update && apt-get install -y wget xz-utils curl && \
wget -O /opt/node-v20.11.1-linux-x64.tar.xz https://npmmirror.com/mirrors/node/v20.11.1/node-v20.11.1-linux-x64.tar.xz && \
tar -xvf /opt/node-v20.11.1-linux-x64.tar.xz -C /opt && \
ln -s /opt/node-v20.11.1-linux-x64/bin/node /usr/local/bin/node && \
rm -f /opt/node-v20.11.1-linux-x64.tar.xz && \
apt-get clean && rm -rf /var/lib/apt/lists/*
# 実行権限を付与
RUN chmod +x /main
# コンテナ起動コマンド
ENTRYPOINT ["/main"]
Docker イメージのビルド
Dockerfile を作成したら、以下のコマンドを実行してDockerイメージをビルドします。
docker build -t my-dify-sandbox .
Docker コンテナの実行
ビルドが完了したら、以下のコマンドでコンテナを実行します。
docker run -p 8194:8194 my-dify-sandbox
これで、Dify-Sandboxが起動し、ポート8194でアクセスできるようになります。
Dockerfileの詳細解説
ビルドステージ
# ビルドステージ
FROM python:3.10-slim AS builder
FROM python:3.10-slim AS builder
: ベースイメージとしてpython:3.10-slim
を使用し、ステージ名をbuilder
としています。- ビルドステージでは、Dify-Sandboxのビルドに必要な環境を構築します。
依存関係のインストール
# 必要な依存関係をインストール(sudoを含む)
RUN apt-get update && apt-get install -y \
sudo \
pkg-config \
libseccomp-dev \
wget \
xz-utils \
gcc \
g++ \
git \
make \
cmake \
curl
RUN apt-get update && apt-get install -y ...
: Dify-Sandboxのビルドに必要な依存関係をインストールします。sudo
,pkg-config
,libseccomp-dev
など、ビルドに必要なツールやライブラリをインストールしています。
Go言語のインストール
# Go言語のインストール
RUN wget https://go.dev/dl/go1.21.6.linux-amd64.tar.gz && \
tar -C /usr/local -xzf go1.21.6.linux-amd64.tar.gz && \
rm go1.21.6.linux-amd64.tar.gz
# 環境変数の設定
ENV PATH="/usr/local/go/bin:${PATH}"
RUN wget ...
: 指定したURLからGo言語のアーカイブをダウンロードします。tar -C /usr/local -xzf ...
: ダウンロードしたアーカイブを/usr/local
に展開します。rm ...
: アーカイブファイルを削除します。ENV PATH="/usr/local/go/bin:${PATH}"
: Go言語へのパスを通すために環境変数PATH
を設定します。
Dify-Sandboxのソースコード取得とビルド
# Dify-Sandboxのソースコードを取得
WORKDIR /tmp
RUN git clone https://github.com/langgenius/dify-sandbox.git
# Dify-Sandboxのビルド
WORKDIR /tmp/dify-sandbox
# install.shとbuild_amd64.shを実行
RUN ./install.sh && ./build/build_amd64.sh # amd64の場合
# ARM64の場合は以下を使用
# RUN ./install.sh && ./build/build_arm64.sh
WORKDIR /tmp
: 作業ディレクトリを/tmp
に変更します。RUN git clone ...
: Dify-SandboxのソースコードをGitHubリポジトリからクローンします。WORKDIR /tmp/dify-sandbox
: 作業ディレクトリをクローンしたDify-Sandboxのディレクトリに変更します。RUN ./install.sh && ./build/build_amd64.sh
: Dify-Sandboxのインストールスクリプトとビルドスクリプトを実行します。build_amd64.sh
はamd64アーキテクチャ用のビルドスクリプトです。ARM64アーキテクチャの場合はbuild_arm64.sh
を使用します。
実行ステージ
# 実行ステージ
FROM python:3.10-slim
FROM python:3.10-slim
: 実行環境のベースイメージとしてpython:3.10-slim
を使用します。
ビルド済みバイナリと設定ファイルのコピー
# ビルドしたDify-Sandboxバイナリをビルドステージからコピー
COPY --from=builder /tmp/dify-sandbox/main /main
# 設定ファイルと依存関係をコピー
COPY conf/config.yaml /conf/config.yaml
COPY dependencies/python-requirements.txt /dependencies/python-requirements.txt
COPY --from=builder /tmp/dify-sandbox/main /main
: ビルドステージでビルドしたmain
バイナリを実行ステージの/main
にコピーします。COPY conf/config.yaml /conf/config.yaml
: Dify-Sandboxの設定ファイルをコピーします。COPY dependencies/python-requirements.txt /dependencies/python-requirements.txt
: Pythonの依存関係が記述されたファイルをコピーします。
Python、Node.js、curl のインストール
# Pythonの依存関係をインストール
RUN pip3 install -r /dependencies/python-requirements.txt
# Node.jsとcurlをインストール
RUN apt-get update && apt-get install -y wget xz-utils curl && \
wget -O /opt/node-v20.11.1-linux-x64.tar.xz https://npmmirror.com/mirrors/node/v20.11.1/node-v20.11.1-linux-x64.tar.xz && \
tar -xvf /opt/node-v20.11.1-linux-x64.tar.xz -C /opt && \
ln -s /opt/node-v20.11.1-linux-x64/bin/node /usr/local/bin/node && \
rm -f /opt/node-v20.11.1-linux-x64.tar.xz && \
apt-get clean && rm -rf /var/lib/apt/lists/*
RUN pip3 install -r ...
: Pythonの依存関係をインストールします。RUN apt-get update && apt-get install -y ...
: Node.jsとcurlをインストールします。
実行権限の付与と起動コマンド
# 実行権限を付与
RUN chmod +x /main
# コンテナ起動コマンド
ENTRYPOINT ["/main"]
RUN chmod +x /main
:main
バイナリに実行権限を付与します。ENTRYPOINT ["/main"]
: コンテナ起動時に/main
バイナリを実行するよう設定します。
Dify-SandboxでセルフビルドできるようなDockerfileとDocker-composeを作成しました!
これで改造しまくれる! https://t.co/z6f1Tag8Ta pic.twitter.com/B3mDTkEKcG— Maki@Sunwood AI Labs. (@hAru_mAki_ch) July 13, 2024
まとめ
本記事では、Dockerfileを用いてDify-Sandboxをビルドする方法を解説しました。
Dockerfileを用いることで、Dify-Sandboxを自身の環境に合わせてカスタマイズし、よりセキュアなコード実行環境を構築することが可能になります。
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